第一章 虚無の連休
「やれやれ、やっと休みか…」
溜息混じりにそう呟いたものの、心はどこか虚ろだった。大型連休、世間が待ち焦がれる黄金週間。だが、僕にはこれといった予定もなければ、時間を共有できる友人もいなかった。仕事人間と揶揄されるほど働いてきたツケが、こんな形で回ってくるとは。
広すぎるリビングのソファに深く腰掛け、ぼんやりとテレビを眺める。華やかに着飾った人々、美味しそうな料理、絶景の観光地。どれもこれも僕とは無縁の世界のように思えた。
「…つまらない」
独り言が虚しく響く。こんなはずじゃなかった。仕事で成功すれば、満たされた人生を送れると信じて疑わなかったのに。一体僕は、何のためにこんなに頑張ってきたのだろう?
頭をよぎったのは「生きる意味」という、あまりにも壮大なテーマだった。学生時代、哲学書を紐解いてはああでもないこうでもないと議論したことを思い出す。しかし、あの頃はどこか他人事だった。自分の人生はまだ始まったばかり、可能性は無限大なのだと、根拠のない自信に満ち溢れていた。
だが、現実は残酷だ。気付けば40代半ば。仕事以外に取り柄もなく、家族もいない。友人に至っては、年に数回会うか会わないか。こんな自分の人生に、一体どんな意味があるというのだろうか?
第二章 プライドという檻
「…認めたくないだけか」
苦い後味が口の中に広がった。認めたくない現実、それは「自分は何も持っていない」という事実だった。仕事での成功、それなりの収入、都心の高級マンション。世間体で見れば、それなりに充実した人生を送っていると言えるだろう。
しかし、それは全て「世間」から見た自分自身に過ぎない。心の奥底では、自分が虚無に支配されていることを自覚していた。そして、その事実を直視することから、必死に目を背けていた。
「…プライドのせいだ」
そう呟いた途端、胸の奥がチクリと痛んだ。僕は昔から、人一倍プライドの高い人間だった。他人よりも優れていたい、尊敬されたい、そんな思いに囚われ続けてきた。
思い返せば、その兆候は中学生の頃からあった。勉強もスポーツもそこそこ出来た僕は、クラスの人気者だった。しかし、心のどこかで満たされない思いを抱えていた。それは、自分が本当に優れているわけではないという、コンプレックスの裏返しだったのかもしれない。
「おい、お前、その服ダサいよな」
ある日、親友が新しい服を着て学校にやってきた。クラスメイトから「かっこいい」と褒められ、得意げな表情を浮かべる親友。その姿を見た時、僕は言いようのない焦燥感に駆られた。そして、悪気もなく口走っていた。
「そうか?俺には、あまり似合ってないように見えるけど」
親友の顔色が変わった。周りのクラスメイトも、気まずそうに視線を逸らす。その瞬間、僕は奇妙な優越感に浸っていた。自分を大きく見せるために、平気で他人を傷つける。そんな自分が、心底嫌になった。
しかし、プライドの高さは、まるで呪いのように僕にまとわりついた。高校、大学、そして社会人になっても、僕は他人と自分を比較しては、劣等感と優越感の間を揺れ動いていた。
まずは、自分の過去と向き合おう。なぜ、自分はこんなにプライドが高くなってしまったのか?その根源を突き止めるべく瞑想に入った